トロッコジレンマと歩道橋ジレンマの道徳的判断についての続きです。
生きた人間の脳活動を調べて、道徳的判断の際、脳のどの部分が活動するのかという研究があります。
トロッコジレンマ、つまり1人を犠牲にしてでも5人を助けようとする行為が比較的許容されるジレンマについての道徳的判断を行う時には、「背外側前頭前野」と呼ばれる領域の活動が確認されました。この領域は論理的思考や合理的判断に関わる領域で、「クール」な、なお言えば、「冷徹」な決断を導く処理をしたということになります。
一方、歩道橋ジレンマ、つまり1人を犠牲にしてでも5人を助けようとする行為が比較的許容されないジレンマについての道徳的判断を行う時は、感情の処理に関わると考えられる内側の前頭前野の活動が認められました。
歩道橋の上から自らの手で人を突き落とすという行為が感情を揺さぶるものであり、結果として意思決定に影響を与えるという研究結果から、「人間は合理的・理性的な存在である」という価値判断はもはや古い考えであると言わざるをえません。
つまり、理性の働きだけでなく感情が私たちの意思決定に作用する事で、より多くの道徳的判断を導きうるということです。
京都大学こころの未来研究センター 阿部修士淳准教授の寄稿より